すきなくらし

映画、ドラマ、小説、舞台等の感想記録と、たまに雑記

『SKIN/スキン』 映画を観て考えたこと

『SKIN/スキン』

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2019年/アメリ



スタッフ

監督・脚本:ガイ・ナティー
製作:ジェイミー・レイ・ニューマン
ガイ・ナティー
オーレン・ムーバーマン
セリーヌ・ラトレイ
トルーディ・スタイラー
ディロン・D・ジョーダン
製作総指揮:ザカリー・タイ・ブライアン
ニック・マーシャル
トレバー・マシューズ
ニック・ゴードン
デイル・ローゼンブルーム



キャスト

ジェイミー・ベル
ダニエル・マクドナルド
ダニエル・ヘンシュオール
ビル・キャンプ
マイク・コルター
ベラ・ファーミガ
ルイーゼ・クラウゼ
ゾーイ・コレッティ
カイリー・ロジャーズ
コルビ・ガネット



内容

2003年にアメリカで発足したスキンヘッド集団「ヴィンランダーズ」の共同創設者ブライオン・ワイドナーの実話をもとに製作され、第91回アカデミー賞を受賞した短編映画を長編化した社会派ドラマ。白人至上主義者に育てられ、スキンヘッドに差別主義者の象徴ともいえる無数のタトゥーを入れたブライオン。シングルマザーのジュリーと出会ったブライオンは、これまでの憎悪と暴力に満ちた自身の悪行の数々を悔い、新たな人生を始めようと決意する。しかし、かつての同志たちは脱会を許さず、ブライオンに執拗な脅迫や暴力を浴びせてくる。そして彼らの暴力の矛先はジュリーたちにも向き始める。ブライオン役を「リトル・ダンサー」「ロケットマン」のジェイミー・ベル、ジュリー役を短編版「SKIN」にも出演したダニエル・マクドナルドがそれぞれ演じる。イスラエル出身のユダヤ人監督ガイ・ナティーブが、短編に続きメガホンをとった。劇場公開時には一部劇場で基になった短編版も上映。 (映画.com)

eiga.com




感想




一週間限定で公式が配信していた短編『SKIN』は鑑賞済み。
20分の短さながら、衝撃的な内容が胸に焼き付いている。

 

短編は評価が高く、長編はそこまでではないと聞いていたので、映画としての期待値はそこそこだったけど、そのせいか思っていたよりはとても良かった。
映画自体の内容についてもだけど、それに派生して、色々な現実の人間の在り方について思いを馳せながら観ていた。



始まってからずっと、哀しくて哀しくて。ほぼ怒りだけに支配されているような人間を見るのは辛く、やりきれなさが強かった。
何かを、誰かを大切にすること、愛情を持つことを皆知っているのに、どうしてこういうことをするんだろうか。
レイシスト集団のことはどうしても理解ができなくて、でも結局自分と自分の周りの人のことしかわからないってことだろうし、自分たちの不遇の責任を関係ない人に押し付けてるだけだろう。
でも人間がこんなに憎しみ合う存在なら、本当に人間の存在してる意味っていったい何なんだろう…なんて思う。



ちらほら感想で見かけたけど、被害者視点の皆無さについて。本作ではこの「レイシスト集団から抜け出した青年のこと」を描いてるので、観たあと色々考えた結果、こういうもんかな……と。引っかかる部分ではあるが、それでもこれは完璧に「ブライオンの」物語なので。一人のレイシスト青年が、組織から抜け出して生き直そうとする物語。 言ってしまえばこれは黒人差別の物語でもない。
被差別者に寄り添うような作品ではない、被差別者の為の映画ではないということはその通りだと思う。被差別者の存在がこんなにも希薄だから。そもそも今作では、そこは目的として作られていないんだろう。
だからこの作品のこの作り自体は、これでいいかなと思う。
また映画の中でのジェンキンスのキャラクターとしての在り方は、まさにマジカルニグロと言われるやつでは?とも思ったけど。これは実際にそういう活動をしてる実在の人なんだし、映画にするとそうも見えてしまうもんかな…。でもジェンキンスのことはもっと掘り下げて欲しかった。というか私が知りたかった。





ジュリーは強い。でも無謀でもある。
子どもなんてどうでもいい、というような放任主義な母親ならともかく、そうではなくて子どもたちを懸命に守ろうとしている。
なのによくこんなレイシストの男と付き合えるもんだ…。彼が組織にいるままでも危険だし、抜けようとしても危険。
自身は組織の思想には相容れないのに、ブライオンと一緒になろうとすることは、凄いと思うと同時にあっけにも取られる。





FBIとの取引によりブライオンは足抜け、組織は逮捕される。
ハッピーエンドであり、こういう人物がいたことが広く知れ渡ることは、同じようにある組織から抜け出す勇気を与えるものだろう。
でもブライオンの贖罪はどうなる?
彼は刑務所には入らない。法的には償わなくていい。どうなの?……それが取引というものなんだけれども。
でも、苦しみをもって、憎しみの象徴であるタトゥーを除去し、人を虐げることなくこれから生きていく。
これからの彼の生き様自体が、贖罪になるんだろう。ということは頭では理解している。
すでに心を改めた一人の青年を捕らえるよりも、まだまだ危険な集団を根こそぎにすることが重要ってことも。分かってはいる。
ブライオンが危険を冒し、覚悟を持ってまっとうな人間になろうとし、成功したのは尊敬する。

 

「赦し」って難しい。
私にできるだろうか。とても酷いことをされた人間に、愛する人を喪った人間に、「彼らを赦してあげて」と言えるだろうか。
短編映画で描かれていたのは差別の、憎しみの連鎖。そういった負の連鎖を止めるには、どこかで「赦し」、憎しみを手放すしかない。 頭では理解している。そうしないともっと悪い方にいき、傷つく必要のない人たちが更に傷つくことになる。
でも、そう簡単に許せない。人間だから。

モヤッとしたのはラストのテロップ。現在のブライオン、講演で「寛容の大切さを説いている」 ということ。寛容は大切だ。社会に、人々に寛容を求めるのは当然だ。けれども、ブライオンが、いわば加害者側がそれを求めるのは図々しいと思ってしまった……。彼が変わったことはわかっているし、本当に凄いと思うけれど。でも寛容の精神が必要なのは、ブライオンがいたような「ファミリー」のような人達こそがそう。ということも含めて語ってるなら、まあ納得ではある。あのテロップだけだとそこまでは分からないから、なんとも言えませんが。

 

そもそもそういう「赦し」を必要とするような事態にならないのが、一番の理想ではある。
貧しい子供たち、寄る辺のない子供たちを引き込み、養い、洗脳するのがこの組織のやり方だけど、そういう子たちを真っ先に救って支えてあげられる社会なら、差別主義者もなくすとは言わずとも減らすことができるのに。 理想論だけど。
結局社会の罪。

 

理想論と言えば、ジェンキンスの存在。
今作ではさらっとしか描かれていなくてその点物足りないけど、この人の活動は本当にすごい。理想論を現実に映している。
黒人を、自身を差別し攻撃してくる人間を転向させる。よくそんなことができるな…。しようと思うことも凄いし、実際成果を上げているのがまた凄い。
レイシストが生まれることを阻止できないなら、せめてそこから脱出させようなんて。卓上の理論のようなのに。




短編映画は「差別問題」の作品だと思うけれど、先ほどちらっと書いたように、長編は違うなと。これは黒人差別についての映画ではない。 レイシストの話ではあるし、育つ環境が重要なのはどちらの作品でも同じだけど。
今作では「差別問題」そのものは実はテーマではないと思う。どんなに酷い人間にせよ、いかに人が変われるか。変わろうと思ったときに強い意志を持てるか。人間への希望の物語。
「人は変わることができる」
そういった励ましが今作にはあるので、短編のような絶望的な物語ではない。実話であるというのが何よりの希望。
そして今作はラブストーリーでもある。
人なんて絶対簡単には変われないし、変わろうとも思わないと思うんだけど、ほんのささいなきっかけが、たった一人との出会いが、全く人生を変えるものになることもある。でも奇跡的な確率。
ハッキリ言ってブライオンはやっぱり超レアケースでしょう。映画になるくらいだし。
自分自身の強い意志と、助けてくれる他人。どちらも必要。
でも、もし何かのきっかけで、自身を良い方向に変えたい人がいたら、ブライオンの存在は希望になる。
私みたいな普通の人間でも、「人は変われる」という事実を伝えて貰えたことは、大きな意味がある。
それにこうやって、色々と思い巡らすことにも。
だから私は、結局この映画が好きかもしれない。









ここはジェイミー・ベルファンのブログなので、主役についても語っときましょう。
私はジェイミーの演技には絶対的な信頼を置いている。なんでもできる人だと思っている。
だから最初こういう役をするって聞いた時も、それから実際に観ても、多くの人が言う「あの可愛かったリトル・ダンサーがこんな役をやるなんて」というような驚きはなかった。
観てみると、むしろジェイミーにオファーされた理由が分かった気がした。
憎しみと怒りに支配された生活。本当に大事なのは犬だけ。そんな生活に潜り込んでくる愛、恐怖、困惑、悔恨。
あの目で、全ての心情を語れる人だから。うってつけの役だったでしょう。
ラストの心細そうな立ち姿が忘れられない。





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