すきなくらし

映画、ドラマ、小説、舞台等の感想記録と、たまに雑記

『9人の翻訳家』悲しみに満ちた余韻、惹き付けられてやまないミステリー

傑作ってあまり言わないんですけど、あとこれは万人が傑作だと言う作品だとも思わないんですけど、私は「これは傑作だ!」と言いたい。と、二回目を観てすごく思った映画。


『9人の翻訳家』

2019年 フランス、ベルギー製作


スタッフ

監督: レジス・ロワンサル 脚本: レジス・ロワンサル、ダニエル・プレスリー、ロマン・コンパン


キャスト

ランベール・ウィルソン
オルガ・キュリレンコ
アレックス・ロウザー
エドゥアルド・ノリエガ
シセ・バベット・クヌッセン
リッカルド・スカマルチョ
パトリック・ボーショー
サラ・ジロドー
アンナ・マリア・シュトルム
フレデリック・チョウ
マリア・レイチ
マノリス・マブロマタキス


映画『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』公式サイト


※ネタバレあり!!!




論理的なことは言ってません。メモみたいに書き殴ります。 ちゃんと内容を知りたかったら、他の方のブログへどうぞ(笑)




初めて観たとき、めくるめく面白さにすごく惹き付けられて、片時も飽きず、目も心も離すことができなかった。

アレックスが犯人ぽいとか、ほんの少し予想できたこともあって、そこはこんなもんかと思わなくもなかったけど、でもそれは問題じゃなかった。とにかく面白い。

(ちなみにアレックスが犯人ぽいと思ったのは、キャラクターを見ててそう思ったと言うより、アレックス・ロウザーという役者が演じてるから、というのが大きい)


そういえば初見、種明かしで一番びっくりしたのは、共犯者達の存在だった。

アレックスが「僕が書いた」というのはそのまさに一瞬前、エリックの問いかけのセリフで、あっと思って気付いたけど、それにしてもあそこは鳥肌立つ。アレックスの演技も逸品。



そしてもう一度観たくて観たくて、二回目。

全てを知って観たこの物語は、あまりに切なくて、悲しくて、最初から胸がいっぱいだった。 もう犯人も、動機も分かっていたから、観ていて分かることがある。 アレックスの表情も。言葉の意味も。 泣きたかった。最後には泣いた。

アレックスとカテリーナが『デダリュス』についてかわす会話。
「ただのミステリーじゃなく、悔恨の物語」   「耐えがたい喪失の悲しみを描いた物語」
これらの言葉を聞いたとき、ああこれはこの『9人の翻訳家』という映画自体のことも表してるようだな、と思った。
それから、「僕にも経験がある」と言ったアレックスの胸の内…。


これは悲しみの物語。

もちろんミステリーとして、いわゆるどんでん返しにつぐどんでん返し、観ていて最高の感覚で、それも素晴らしい。

そこに、友への、創作物への、自分の作品への、アレックスの深い深い愛情が加わり、悲しい復讐の物語となる。


私も小説が好きだ。だからより響くところもあった。 読書好きの人には、より観て欲しいと思う。



ところで今回やっと気付いた。トランクの暗証番号。 カテリーナが開けたエリックのトランクは、069。 対して、チェンが開けたトランクは、777。 ここで、この二つのトランクは別物だと、ちゃんと観客が気付けるようになってたんだなぁ。



この映画を観たらアレックス役のアレックス・ロウザーを好きにならずにはいられない。

元々彼目当てで観たというのもあった。 でも正直ちょい役だと思ってたので、裏の(表か?)主役という嬉しい驚き。彼の魅力が爆発してる役だった。あまりに素晴らしい。 脱力系のふわふわした若者から、ミステリアスな青年、そして哀しみに満ちた天才ー。

ラストシーン、微かな満足感と、でもそれでは消せない深い哀しみと孤独に溢れる立ち姿が、いつまでも心に残る。



他のキャラクター達についてとかも、言いたいこといっぱいあるんですけど、言葉にならないのでやめときます。



脚本は面白い、演出も惹き付けられてやまない、音楽も好きだ、そして役者もアレックスはじめ皆最高。 あれ、傑作だよね?



深く引きずる余韻に支配され、もうこの映画の虜です。
出来ればもう一度観に行きたいけどもう厳しそうなので、一刻もはやく円盤の発売を望みます。