すきなくらし

映画、ドラマ、小説、舞台等の感想記録と、たまに雑記

より残酷になった2017年版『人間風車』感想

人間風車』は初演は観れてませんが、2003年版はDVD鑑賞しています。
それとの比較になるかな。
今回は大阪公演を観に行こうか散々迷って、結局行かなかったんですよね。
矢崎さんも出てるし、何よりオチが違うというのがかなり気になって、DVD購入。

 

 

 

 

 


2017/9/28~10/9 東京芸術劇場プレイハウス ほか

スタッフ

作:後藤ひろひと
演出:河原雅彦

キャスト

成河
ミムラ
加藤 諒
矢崎 広
松田 凌
今野浩喜
菊池明明
川村紗也
山本圭
小松利昌
佐藤真弓
堀部圭亮
良知真次

作品紹介

売れない童話作家の平川が披露する奇想天外な童話に、近所の子供たちは大はしゃぎ。けれども、童話の登場人物や題名はレスラーの名前、テーマも"三流大学出身より高卒の方がまし" だから、子供の親からはクレームばかり。
 公園に集まる子供たちの中には、へんてこ童話の主人公になりきって現れる奇妙な青年・サムがいた。
 ある日、平川はひょんなことからTVタレントのアキラと知り合う。その出会いは平川の作風にも大きな変化をもたらしていくのだが…
(公式より)

www.parco-play.com

感想

盛大にネタバレありです。未鑑賞でこれから観る予定のある方は、読まないことを強く勧めます。

私は演出家のG2さんがけっこう好きです。
前の2003年版はG2さん演出だったけれど、でも今回はG2さんじゃないこっちの2017年版の方が好きかも!?

今回の演出家は、2003年版でサム役を演じた河原雅彦さん。
この方の演出観るの初めてかな、と思ってたらあれだ、矢崎さん主演の『黒いハンカチーフ』の演出この人だわ。あれ面白かったですよ。

内容は当然ながら基本一緒です。
演出、演技は全体的に今回の方がテンション高め。そして舞台装置が立派…!(笑)

主要の役者も私は今回の方が個人的に好みかな。
作家の成河さんやサムの加藤くん。
おまけに小杉の矢崎さん。矢崎さんについてはいつもながら語りたいので、後述します(笑)

サムはね…正直前の河原さんの演技、好きじゃなかったんですよ。オーバーでくどいというか。加藤くんはルックスが濃いんだけど(笑)、演技自体はそこまでくどくもなく、幼さがぴったりで、断然こっちの方が好み。

で、作家の入江雅人さんはまあ良いけど、やっぱり成河さんの方が好み。入江さんの時は思わなかったんですけど、今回の成河さんの作家は、すごく「子どものまま大人になってしまった」感が強かったんですよ。それが良い。サムは事故によって知能が子どものまま止まってしまったけれど、作家はまたサムとは違って、でも同じ、「子どものまま」なんだなあ……と。そういう印象を強く受けました。
子どものままだから、人を簡単に信用してしまう。そして裏切られる。可哀想。
でもすごく今回思ったんですけど、小杉がゲスすぎて、こいつはどう考えても友達じゃねーだろ、っていう(笑)まあ小杉のことは流石に友達とは思ってなかったでしょうが。
成河さんはめっちゃ芸達者ですよね。超上手いと思います。

アキラは悩む。ミムラさんも良かったけど、前の永作博美の演技とだいぶ似ていると思います。似せてる?こういう演技指導?初演観てないからわからないですけど、最初からアキラはこういう風になってるんでしょうか。
でも永作さんに比べてミムラさんのアキラの方がなんだか子どもっぽい感じあったな。

で、矢崎さん。
もうね、感動しました私。嫌な奴の演技、上手すぎる。あまりにこれがハマりすぎていて、いつも抱いている「好青年」イメージの矢崎さんってどんなだったっけ?と頭をひねりましたもん。いや素晴らしい。もともと私、たいていの好きな俳優には「悪役やってほしい」と思う人間なんですけど、矢崎さんもこんなの見たら、もっとたくさん悪役やってほしいと思う。
でも考えたら前からこの素質の片りんは見えていたんですね。私ファン歴浅いのでそんなに出演作観れてませんけど、そんな私が個人的に一番良かった矢崎さんの演技って、『宮本武蔵(完全版)』の佐々木小次郎役ですもん。あれも素晴らしかった。一見人懐こくて好青年な、最低な奴。
そうかー、嫌な役上手いんだな!
もう恐れ入りました。最低で最高。

ところで劇中劇でも嫌な奴の役なのはウケました。ケビンは嫌な奴とはまあ違うか?
あと地味に殺陣が嬉しかったです。上手いな。

思ってたんですけど、例えばドラマ『相棒』や『特捜9』なんかの刑事ものに、悪役でゲスト出演してほしいですね。私が好きなだけですけど(笑)でも実際ゲストに舞台俳優さん出てること多いし。
同情の余地がある可哀想な犯人ではなく、もう最低最悪の人間を演じてほしいです。
いや別にドラマじゃなくても、舞台でも。なんでも。極悪非道の役、いやー観たいですねー!

私の中の「お気に入り矢崎さん演技」トップ3くらいにランクインしました。

で、オチが2003年版と違うんですけど。
ところで初演と2003年版は同じなんですか?初演は生瀬勝久&阿部サダヲだから絶対凄いだろ、と思って、いつかは観たいんですが。

2017年版は、何よりアキラが死ぬのが衝撃でした。マジかよ……って思った。
この時点で残虐度アップ。
中身はいわば「作家の作った殺人鬼ビルに取り憑かれてる」ようなもんなわけですけど、やってるのはサムですからね。姉を殺してしまった……。

しかも2003年版では、サムがアキラを殺そうとするところを、作家が「翼の生えた少年」ダニーの話をして、サムは死に、アキラは助かるじゃないですか。
ダニーが飛び降りるとき。何故翼を開かないのか、というサムの問いに、2017年版では作家が「ダニーがそう決めたから」と答えるんですけど、2003年版ではこの返事をするのはアキラなんですよね。いわば、アキラも作家の物語に手を貸すわけです。サムの死に。二人は協力関係となる。悲しみは底なしだけれど、これ以外道はないとわかって。ここの永作博美はすごく良かった……。

つまり2003年版では作家とアキラが結果的には協力して、サムを死に至らしめるわけなんですけど、でも2017年版は、ここに至る前にアキラは既に殺されている。アキラと作家の関係はその前の最悪なディナーのままで、そしてアキラははっきりと弟に何が起こったのかわからないまま、弟に殺されるというわけで。
作家にはより大きな責任が、そしてアキラは完璧な被害者となっている。
2003年版と2017年版の大きな違いとして、アキラが死ぬか生き残るかだけでなく、それによって付随してくるアキラの作品上での立場が大きく変わってますね。

そして一番のオチ。
2003年版では、この事件の後も、何年も後も、作家はずっと同じように、公園で子どもたちに物語を聞かせ続けています。
アキラとの関係は当然修復はされていないだろうけど、作家はひとり平穏な人生を送っているわけです。

ここを落としてきたのが2017年版。
事件の後もうここにはいられないと去ろうとする作家に、電話がかかってきます。
ビルから。
彼自身が作り出した、不死の殺人鬼から。
サムは最後ビルから解放され、ダニーとなって死ぬわけですから、ビルは宙に浮いてしまってる状態。そこに目を付けた変更ですね。
これによってファンタジー色がより強くなってますね。サムがただ作家の物語を演じていたわけではなく、そのキャラクターはもう独自で存在してしまっていると。
この作家に救いを与えないラスト、けっこう好きです。

でも私が脚本家や演出家なら!ここの変更は、この更に後、作家自身をビルにしたいです(笑)
作家がビルに乗っ取られたとこで終わらせたい、とか思って観ていました(笑)

というわけで、まあ個人の好みですが、私は全体的に2017年版の方が良かった!
でも感想でよく見かけていた「鬱作品」とまでは思わなかったですね。確かにかなり暗い結果にはなっていますが。
私はそこまでこの暗さを引きずるような感じではないです。
でも面白かった。

次にまた上演がある時は、どんな物語になっているでしょうね。