すきなくらし

映画、ドラマ、小説、舞台等の感想記録と、たまに雑記

映画が好きだからこそ、心抉られる。 舞台『キネマと恋人』DVD感想

当時生観劇しました。当時の感想をあえて読まずに、今回の感想いってみます。
 

 

『キネマと恋人』


 2016/11/15~2016/12/4 シアタートラムほか

 

 

 

 

スタッフ

台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

キャスト

妻夫木聡緒川たまきともさかりえ三上市朗、佐藤誓、橋本淳、尾方宣久、廣川三憲、村岡希美、崎山莉奈、王下貴司、仁科幸、北川結、片山敦郎

作品紹介

世田谷パブリックシアターが、KERAとタッグを組んでお届けするのは、シアタートラムの小さな空間での、ひとつひとつを大切に紡ぐ、手作り感覚いっぱいの作品。
『キネマと恋人』は、ウディ・アレン監督の映画「カイロの紫のバラ」にインスパイアされた舞台である。
設定を日本の架空の港町に置き換えて、もう少しだけややこしい展開にすると――。
映画への愛あふれる、ロマンティックでファンタジックなコメディが、息づきはじめる。
(公式より)

世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#007 『キネマと恋人』 | 主催 | 世田谷パブリックシアター





 

感想

 

ネタバレあり





この作品は本当に心をえぐってくる。
好きな作品かと言われたらそうではないのだけれど、心を持っていかれる。でも初めて観たときよりは好きかも。
もう内容を知っているから、初っ端からなんだか泣きそうだった。
最後は号泣しそうなのをこらえてた。


 


ケラさんは上手い。脚本。なんだこの脚本。あ、でもこれは原案があるんだったね。ウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』。私は未見ですが。内容はまんまなんでしょうか。
そして演出。
この作品は演出がシャレてる。オープニングクレジットの演出なんかすごくオシャレでかっこいい。
劇中も、特にハルコの部屋のあれ!あの演出すごいな~と思う。世界が真っ暗になり、揺れ始める。そのままそれを見せている。
黒子がダンサー的なのも面白い。
音楽も、昔の映画音楽風ですごく良い。
劇中映画の映像や見せ方も好きだなー。人物の出入りも(笑)




私は映画がすごく好き。中学生で『スタンド・バイ・ミー』の虜になってからずっと。
このブログでは今は演劇の感想ばかり書いているけど、映画は変わらずいつまでも好き。私にいろんな世界を見せてくれて、いろんな人の心や生き方に触れさせてくれる。喜びも、悲しみも。自分の人生以外の人生に、ひと時触れることができる。もちろん、演劇や、それから小説もそう。だからどれも好き。

映画は心の支えでもあった。いや、今も。

だからこそだろうか、この『キネマと恋人』にはえぐられる。
だってこの作品は、映画が大好きで、映画を心の支えにしていて、映画に恋している人が主人公で。映画の登場人物が現れて自分に恋をし、それを演じている俳優も自分に恋をする。そんな夢みたいな出来事が起こって。でも彼女は映画の中の人ではなく、現実に生きている人を選んでしまうわけだけれど、その現実には裏切られ、結局彼女は「本当の」自分の今まで生きてきた現実に戻っていくしかない。

まさに「上げて落とす」みたいな……(笑)
ひどい、鬼畜すぎる。


夢のようでしょう。映画の大好きな登場人物と、それを演じている俳優が、自分のことを好きだと言ってくれるんだよ?(笑)
でも私もそうなんだけど、たくさん好きな映画があって、好きなキャラクターがいて、好きな俳優もたくさんいる。それこそ山のよう(笑)でもそれは当然ながら、恋しているわけではない。「映画」自体には恋しているけれど。
きっとハルコもそう。
それでもね、分かるよ。こんなふうに好きだと言われたら、ぐらっとくる。そりゃくるよ。
ましてハルコの現実は、嫌なことがたくさん起こっているから。DV旦那。しかも無職で浮気もする。

でもその旦那の最後の捨て台詞が的中してしまう。「そんなに甘くない」「きっとすぐに戻ってくる」


……なんて鬼畜な内容なんだ(2回目)
でもこの悲劇だからこそ、すごく心に残る作品になっているわけだけど。



映画の人物じゃなく俳優を選び、その俳優に捨てられたハルコは、やはり映画館へと舞い戻る。また映画を見て笑う。どんなに辛くとも、泣きたくても。これからも彼女はそうやって人生を送っていくんだろう。
悲しい時も、嬉しい時も、何もなくても、映画を見続ける。








今回印象深かったのは、ハルコとその妹の、映画に対するスタンスの違い。
私は確実にハルコよりで、映画への熱い思いがあるわけだけど(笑)、妹は違う。ただその時を楽しむ。ハルコの方が少数派なんだろうな……としみじみと思ってしまった(笑)
でもどちらも最後は、映画を見て共に笑う。それで辛い現実を忘れられるわけではないけど、ひと時でも映画に心は癒される。










今作は芸達者が揃っております。
緒川たまきともさかりえ、三上市郎、村岡希、そして橋本淳。
妻夫木聡はどうしても映画俳優のイメージなので、舞台だとどうなんだろうってところは当時あったのですが、いやー舞台でも上手いですね。今回見てもやっぱり良い。映画の中の寅蔵と、それを演じている俳優の高木の二役となりますが、寅蔵の人懐こいチャーミングさと、それに比べると少し都会的な、洗練された空気を持つ高木の違いが良かったです。
寅蔵がかわいらしすぎる。

緒川さんとともさかさんの、テンション高めだけど悲しみを抱えた演技が良い。

私は地味に三上さんが好きです。この方もすごい上手い。
この最低な旦那、どことなく憎み切れない感じを醸し出すんですよ……でもそれがDV夫というもの。優しくして引き留めて、結局また暴力をふるう。
確実に逃げるべき案件なんですけど、今作のハルコはひとりでどこか、東京でもそれ以外でも、逃げることはせず、あのラストの映画が終われば、きっとまたあの夫のいる家に帰ってしまうんでしょうね……辛い。

橋本くんも本当に最低です。嵐山はシリーズ映画で主演をはっており、若くて男前で女性にモテモテ、てな役どころですけど、まー嫌な奴。でもこういう俳優いそう……(笑)
橋本くんも映画の中のキャラクターと二役になりますが、映画のキャラの方はとてもキュートです。現実の俳優は高木を超毛嫌いしているけれど、映画の中の彼は寅蔵大好きの好青年です。かわいい。








個人的には心抉られる作品ですが、基本エンタメなので観やすいです。
映画好きにこそオススメしたいですが、同じく映画好きの母は今作ダメだったみたいなので、映画好きだからと言って響くとは限りませんが。