すきなくらし

映画、ドラマ、小説、舞台等の感想記録と、たまに雑記

親の弱さを知ること。 『ボトムズ』

ボトムズ』ジョー・R・ランズデール

ボトムズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ボトムズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)


作品紹介(Google Books)

80歳を過ぎた今、70年前の夏の出来事を思い出す―11歳のぼくは暗い森に迷い込んだ。そこで出会ったのは伝説の怪物“ゴート・マン”。必死に逃げて河岸に辿りついたけれど、そこにも悪夢の光景が。体じゅうを切り裂かれた、黒人女性の全裸死体が木にぶらさがっていたんだ。ぼくは親には黙って殺人鬼の正体を調べようとするけど...恐怖と立ち向かう少年の日々を描き出す、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。





感想

「少年視点の海外ミステリーもの」を探して行き着いたうちの一作。
先に読んだジョン・ハートの『ラスト・チャイルド』が好みでなかったため、こちらはどうかとおそるおそる読んだが、最初の数ページで不安は吹き飛んだ。
不思議だ。全然物語は始まっていないのに、ほんの出だしで、この小説が自分にとって好みに合うものかどうかがわかる。
その直感を裏切らず、全編通して非常に良い作品だった。好きな小説の一冊になった。



アメリカ文学には多いけど、こちらも黒人差別がひとつのメインテーマとなっている。
まあなんというか、差別って本当にどうしようもないなと……。ずっとそういう風に言われて育ってきて、それが何代も何代も続いていて、もう考えに染み付いてしまっている。簡単には抜けない。更には白人であっても黒人擁護する人は痛めつけられる。すごい時代。
主人公ハリーの家庭は黒人も白人も平等という精神を持っている、素晴らしいし、当時としてはかなり進んだ考えだったんだろうなと思う。





私が一番注目したいのはやはり、ハリー少年の成長物語という点だ。

少年が主人公の作品は、その少年の子どもから大人への変化、精神の成長を描いているものが多い。
これまでは気付かなかったことに気付き、死ぬことについて悟り、尊敬していた親にも弱い面があると知り、世界は素晴らしいものだけで溢れているわけではなく……。要するに、世の中は汚れていると知ることが、大人への第一歩と言えると思う。

ハリーが様々な物事を悟っていく姿が、自分の子ども時代も思い出させた。
皆いつだったかは覚えてなくても、ある時いきなり死を意識し、親に反抗心を覚えた時があるはず。

ハリーの父、ジェイコブはこの作品でかなりの要となっている。少年の物語では、父親の存在は非常に大きい。
このジェイコブがまた非常に良く出来た人間。
自分の弱さを知りながらも、それに打ち勝とうと努力している。ハリーに、大事なことをたくさん伝えている。この、「自分の弱さを知っている」という点が、人間としてとても重要だと思う。

作中で、ハリーがジェイコブの泣き声を聞き、胸を痛めるシーンがある。

ところが、ときどき夜遅くにパパの泣き声が壁越しに聞こえてきた。父親が泣いているのを聞くのがどんなに心の痛むものか、説明のしようがない。p.295

そうだ。親にとっても子どもが泣いている姿は胸が痛むものだろうが、子どもにとって親の泣いている姿は、さらにそれ以上のダメージがあると思う。
親も一人の人間であり、決して完璧ではないと知っていても、それでも親は子どもにとって強いものだから。
でも、親も弱い。







ミステリー作品としてももちろん良かったが、私はやはり、様々な物事に気づいていくハリーの視点、思考を追うことが、本作で一番の醍醐味だった。とても細やかな描き方だ。

ミステリー好きだけでなく、純文学好きにもお薦めできる一冊である。














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