『陥没』感想。笑いと涙の人生賛歌。
『キネマと恋人』(『キネマと恋人』感想。映画という夢を愛すること。 - 好きな気持ちが生きる糧)が大変良かった、ケラリーノ・サンドロヴィッチさん作。
これがまた良かったです……!
陥没
2017/3/5
@森ノ宮ピロティホール
13:00開演
M列上手ブロック
http://www.bunkamura.co.jp/s/cocoon/lineup/17_kera3.html
内容紹介
東京オリンピックに翻弄される人々を通して、
東京と昭和を照射するKERA待望の新作書き下ろし!2009年の『東京月光魔曲』と2010年の『黴菌』で、昭和の東京をモチーフに作品を発表し、「昭和三部作」を目指したケラリーノ・サンドロヴィッチ。7年という時間を挟んで、いよいよ完結編となる3作目が誕生する!
2016年、読売演劇大賞最優秀作品賞・優秀演出家賞、芸術選奨文部科学大臣賞と大きな受賞が続く、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)の待望の新作書き下ろしです。
『東京月光魔曲』(2009年上演)、『黴菌』(2010年上演)と、昭和のそれぞれの時代の東京をモチーフとした前2作から7年の時を経て、2017年2月、第1回東京オリンピックを目前に控えた1963年頃の東京を舞台とした『陥没』が誕生する。わずかな年月で敗戦から復活を遂げたこの国が、輝かしい成果を世界に示す晴れの舞台となった東京オリンピック。道路の拡張と舗装、さまざまな向上心、野心、情熱、欲望が、工事の音ともに東京に渦巻き、一方、その時代、その場所に居合わせながら、なぜか時流に乗り遅れた人々もいただろう。この作品は、それでも捨て切れないオリンピックとの因縁に翻弄される人々の群像劇となる。2020年には第2回東京オリンピックが開催される東京。「あったかもしれないオリンピックの物語」を通して、昭和と東京、さらには、平成の東京オリンピックまでも照らし出すはずだ。
スタッフ
作・演出: ケラリーノ・サンドロヴィッチ
舞台監督: 福澤諭志
感想
※ネタバレあり
会場に着いたらもうDVD発売が決定していて、終演後の予約を受け付けていました。
芳雄さんにうたコンからお花がきてた!
ストプレは男性の観客も多いですね。
ミュージカルってなんであんなに女性ばかりなんだろ。
さて、『キネマと恋人』のケラさん演出なので、期待していた。
これがやっぱり非常に面白かった・・・!
悲喜劇だ。笑いと悲しみの混ざり合い。
悲しみはすぐ笑いへと転じる。そうやって進んでいく。
物語も、人生も。
人生賛歌の舞台だ。
『上を向いて歩こう』の音楽で始まる。
照明によってセピア色になっている舞台。すぐに、これはいわゆる「プロローグ」で、過去の話なのだと分かる。
貞晴と瞳が、幸せな婚約者同士だった頃。
舞台となるホテルはまだ建設中。
このプロローグのラストで、瞳の父が亡くなってしまう。
オープニングクレジットがすごくかっこいい!
映画みたい。
しばらくは、物語がどう進むのか見えなかった。
プロローグで婚約者だった二人はすでに離婚し、瞳は再婚、貞晴も結婚を控えている。
瞳が父の後を継いで経営するホテルで、貞晴の婚約パーティーを開く。
群像劇なんだろうと思ったけれど、やはりこれは瞳と貞晴の物語だった。
本当はいまだ愛し合い、しかしお互い自分が選んでしまった道からもう抜け出すことはできなくなっている。
二人が再び共に人生を歩むことになる、そのドタバタな、また少しファンタジックさも交えた、そんな経緯。
そして彼らを取り囲む人々の物語も。
貞晴の母、鳩がこう言う場面がある。
「貞晴は、正しいチョイスをしたのでしょうか?」
人間は、人生で数えきれない選択をする。選択をせずに生きることはできない。
様々な選択を経て、ここにいる。
貞晴と瞳は、自分たちが間違った選択をしたと気がついている。離婚、そして別の人間との再婚。
間違えたと気がついていても、そうとは認めない、認めたくはない。自分たちは正しい選択をしたのだと思い込もうとしている。
そのまま進んでしまう未来もあったろう。
が、様々なとんでもない出来事により状況は二転三転し、二人は再び共に歩むことになる。
貞晴への思いを語る瞳。
ひとつひとつは何気ないことばかり、でもあまりにも愛に溢れていて、泣けてしまう。
瞳につきまとう大門を殴った貞晴。
隠していた愛情が溢れた瞬間。
最後のBGMは、『見上げてごらん夜の星を』。
歌はなしだが、私は歌詞が頭に浮かんで、舞台上の二人とあまりに重なって、感動する。
見上げてごらん 夜の星を
小さな星の 小さな光が
ささやかな幸せを歌ってる見上げてごらん 夜の星を
僕らのように 名もない星が
ささやかな幸せを祈ってる
このBGMの中、舞台上にいるのは三人だけ。
貞晴、瞳、貞晴の弟の清晴。
清晴は眠っている。
貞晴は、瞳に語り続ける。
「映画に行こう」「旅行へ行こう」「宇宙旅行も当然になってるだろうな」
緊張したような、上ずった様子で話し続ける貞晴に対し、言葉少なに、でもはっきりと相槌を打っている瞳。
決して貞晴は「結婚しよう」とは言わない。
しかし彼の語る言葉の数々は、「これからの人生を共に歩もう」ということ。
そして日本の未来、自分たちの未来への高まる希望。
清晴が目を覚ます。
いつの間にか黙りこくっていた瞳を、観客からは背中しか見えない瞳を見て言う。
「なんで泣いてるの?」
なんでだろう。きっと、安堵したからだ。幸せでいっぱいだからだ。
あまりにも暖かい気持ちで溢れているからだ。
観客も、私もそうだった。
あまりに感動して、号泣寸前だった。
結局この舞台は人生賛歌であり、この元夫婦が、お互いの、自分たちの居場所を取り戻すための物語であった。
舞台自体は、貞晴と瞳以外の人物もしっかり描かれており、皆とてもキャラが立っている。
群像劇の要素も強い。
主演コンビ井上芳雄さんと小池栄子さん、とても良かった。
二人の空気感がよく合っていて、しっくりくる。それぞれ再婚相手との空気の合わなさが、対照的に際立っていた。
貞晴の婚約者、結は、どこか危うい感じのする少女。
最初は意地悪さを感じたけれど、見ているとむしろ危うさの方が強く感じてくる。
松岡茉優ちゃんは好きな女優さん。今回も上手かったのだけれど、他のキャストに比べて声の通りがイマイチだったのが少し残念。
今回驚いたのが瀬戸康史。
この人あまり演技が上手いと思ったことがなかった。
が、この清晴。非常に良かった。とてもハマっている。
純粋さ、真っ直ぐさ。下手したら多少はウザく感じてしまいそうなキャラクターを、瀬戸はものすごく愛らしく演じた。愛さずにはいられない、皆に愛される清晴。
大好きなキャラクター。
貞晴との兄弟愛にも感動した。清晴は兄を信頼しきっているし、貞晴は弟をすごく、すごく可愛がって、愛している。
そして母も。この親子三人は、とても良い家族関係だと思った。
最初「このキャラ少しきもいぞ・・・」とおもった山中淳さん、結局は一途で一生懸命で、最終的には好感度高くなる役得ポジション。
犬山イヌコさん演じる鳩さんは愛らしい。
生瀬さんは・・・相変わらずアクが強い。
今回もしょーもない人間を全力で演じ切ってくださって。本当に上手いなぁ。
近藤公園さんは名前だけ存じ上げていたのですけど、私の好きなタイプの演技かも。
今作のキャラは、明るく、人当たりの良い人。一見、そう見える。が、実は毒がある。腹黒そうというか。
『キネマと恋人』では主演だった緒川たまきさん。
今回は笑い担当。最高に面白い、この人の独特のテンポ。
今作は悲劇的な展開もありつつ、笑いに溢れている。
すごくよく笑った。
どの人もこの人も、またどんな場面でも笑わせてくる。
笑いって難しいと思うのだけれど、くどくなく、本当に面白かった。
笑いの余韻に浸りつつ、ラストではあまりに感動して。
最高の作品でした。
DVDは予約はして帰らなかったのですが、絶対買おうと思います。