自然との闘い、男たちの強さ。『白鯨との闘い』
『白鯨との闘い』"In the Heart of the Sea"
2015年/アメリカ
監督:ロン・ハワード
原作:ナサニエル・フィルブリック『白鯨との闘い』
脚本:チャールズ・リービット
出演:クリス・ヘムズワース、ベンジャミン・ウォーカー、キリアン・マーフィ、ベン・ウィショー、トム・ホランド、ブレンダン・グリーソン、ミシェル・フェアリー、ポール・アンダーソン、フランク・ディレイン、ジョゼフ・マウル、エドワード・アシュレイ、サム・キーリー、オシ・イカイル、ゲイリー・ビードル、シャーロット・ライリー、ドナルド・サムター、リチャード・ブレマー、ジョルディ・モリャ
作品紹介(映画.com)
「ビューティフル・マインド」「ダ・ヴィンチ・コード」など名作、大作を数々手がける名匠ロン・ハワード監督が、19世紀に捕鯨船エセックス号を襲った実話を映画化。ハーマン・メルビルの名著「白鯨」に隠された事実を明かしたノンフィクション小説「復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇」をもとに、太平洋沖で巨大な白鯨に襲われた捕鯨船の乗組員たちの死闘を描き出した。1819年、一等航海士オーウェンと21人の仲間たちは、捕鯨船エセックス号で太平洋を目指す。やがて彼らは驚くほど巨大な白いマッコウクジラと遭遇し、激闘の末に船を沈められてしまう。3艘のボートで広大な海に脱出した彼らは、わずかな食料と飲料水だけを頼りに漂流生活を余儀なくされる。主人公のベテラン航海士オーウェンを「マイティ・ソー」「アベンジャーズ」シリーズのクリス・ヘムズワースが演じるほか、共演にも「リンカーン 秘密の書」のベンジャミン・ウォーカー、「ダークナイト」のキリアン・マーフィ、「007 スペクター」のベン・ウィショーら豪華キャストが集結。
感想
公開延期もあり、かなーり待ち望んでいた本作。
なのに公開から一週間も経ってしまいました。やっと観ましたよ!
Twitterでの評判は、まあ賛否両論。
思ったよりはイマイチのようで、どんなもんかなーと思いつつ観ましたが。
なんだこれ、面白いじゃないか!!!
元々は『白鯨のいた海』という邦題だった本作。
このタイトルが好きで、『白鯨との闘い』ってどうも……と思っていましたが、観てみたらあながちこのタイトルも的はずれではなかったかな。
白鯨が恐ろしく、悪魔と言われていましたが神でもあるようで。恐ろしい一方で気高い。海の中の、触れてはいけない生き物といった印象。
登場人物の、この捕鯨にかけるプライドだったり欲だったり。航海を乗り越えて得た強さだったり。
男の生き様といった映画の印象は、同監督、同主演の『ラッシュ/プライドと友情』に通ずる。
とは言え、ラッシュは自分との、ライバルとの闘いであるのに対して、本作はまさに自然との闘い。鯨も単なる動物というより自然の一部のよう。
自分ではどうにもコントロールできない物事に襲い掛かられる恐怖。
そしてサバイバル。究極の決断。
私は全編通して怖かったです。
元々海が怖い。未知の世界に対する恐怖。
そして抗えない自然と、巨大な鯨。
観ながら怖くて怖くて……。
主演のクリス・ヘムズワースがやたらと格好良かったです。
格好良さ炸裂。
『ラッシュ』でけっこう好きになってたんですが、もうこれで惚れ込んでしまった。
お目当てのトム・ホランド、思ったよりまだまだ子どもだった。
ヘムズワースや他の男たちの中にいたからだろうか。『インポッシブル』よりもちろん成長はしていたがそれでも幼い。
この物語は彼の視点で語られるが、新米であり少年である彼の濁りない、偏見のない目で語られたことが良かったかな。
嫌な奴も出てくるけど、最終的に皆憎めない。
『ラッシュ』のようなある種の爽快な感動は与えてくれません。
しかし熱い。怖い。観入ってしまう。
そしてやはり爽快ではない、でも観終わってじんわりと感動した。
ちなみにメルヴィル『白鯨』はドラマ版を観ただけで未読なので、また読んでみたいと思った。
挫折率が高いようだけど。
ネタバレあり
さっきも言ったしすごくミーハーっぽいけど、オーウェン・チェイスを演じるクリヘムが本当に格好良い。
航海の初っ端から、頼れる経験豊富っぷりを見せてくれて、あ、これはこの男に着いて行ったら安全だ、と思わせてくる。
新米トマス・ニッカーソンはチェイスに船酔いを治してやると船から逆さまでぶら下げられ、結局吐いて、そこで自分が孤児であることを話す。
「これからは楽しいときもつらいときも俺たち皆が家族だ」「つらいぞ」
船旅の、捕鯨の辛さを念押しされているけど、ここでニッカーソンの顔に浮かんだ表情は、まさしく羨望。一気にチェイスのことを信頼した顔になったのが印象的だった。憧れを抱いた。
男の友情として気になるのは、やはりチェイスと船長ポラードだろうか。
名家だからと船長になり、経験の浅さと恐らくプライドや焦りのため空回り、皆を危険に晒す、嫌味で傲慢な船長。
もちろんチェイスとの相性は最悪。
彼に対しての印象は物語が進むにつれ変わっていく。二人の関係も。
船を失い、漂流するハメになり、新たに見えてくる船長の人間性。
名家のお坊ちゃんはお坊ちゃんで、色々と抱えているものが大きかったんだろうな……と同情。
チェイスとポラードは友人とまでは言わないかもしれないが、絆が出来ていった。
ラストの船長はやはり格好良い。チェイスに影響されたのであろう、包み隠さず真実を話す姿は少し怯えているようにも見えるが堂々として、涙腺を緩ませた。
宣伝で散々言われていたこの映画の「究極の決断」だけど、これはたいていの人が予想がつくだろう。
航海、漂流、食べ物の不足となったら、取る手段は限られている。
と、予想していたとは言え、その決断の場面はかなり胸に迫った。迷う余地などほとんどない。生き延びるためにはそうするしかない。例え人道に外れたことであっても。
くじ引きで死を決めたボートでは、船長の従兄弟コフィンが船長の代わりに自らを撃った。
この人も嫌味なキャラだったのに、ここにきての好キャラ。哀しい。どんなに船長を大事に思ってたんだ。
船長の乗ってる方のボートが発見される場面は、やはり発見した人と同じようにゾッとした。
痩せこけた二人の男、ボート内に散らばる人骨……。
なんて哀しく壮絶なのか。
期待していた鯨の映像だが、これがもうド迫力。本当に怖かった。
畏怖の念を覚える。
ポスターにも予告にもあった、皆が海に落ちてその目の前で鯨の巨大な尾がそびえるシーン。ゾクゾクとした。
また、最後の遭遇で、チェイスと鯨が目を交わすシーン。あそこでどんな思いがチェイスの中に渦巻いたのだろうか。
現代では捕鯨はかなり批判されている。
この映画でまた印象深かったのが、最初に鯨を仕留めた場面。
攻防の迫力もさることながら、ついに息絶えた鯨から血潮が噴き出し、乗組員の顔に赤い液体が降り注ぐ、この一連。
興奮する乗組員たちと、自分が仕留めたのに笑顔も見せず難しい顔で黙っているチェイス。そしてどこか衝撃を受けているようであるニッカ―ソン。
この映画では、捕鯨はただの狩りではなく、命あるものを殺す行為であることを見せつけてきたように感じた。
ニッカーソンとチェイスの別れのシーン。
幼さを感じさせるニッカーソンと、彼を優しい目で見るチェイス。
「光栄でした」「俺の方こそ」
ニッカ―ソンに、身に着けていた鯨の骨を与える。
ニッカーソンに対する呼びかけが途中でミスターになるのに気づく。
そして字幕では「達者でな」とだけ訳されていた、ニッカーソンにかけた最後の言葉。
"Good luck Captain Thomas."
憧れの人物からかけられたこのCaptainという単語は、少年の胸にきっと勇気と希望を与えたに違いないと思った。
映画は、語り手であった年老いたニッカーソンがメルヴィルに、「土の中から油が見つかったんだってな」という話をして終わる。
石油が見つかった。
もう、捕鯨の必要はない。
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関係ないけど漂流からの人肉食で思い出したホラー小説。
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