すきなくらし

映画、ドラマ、小説、舞台等の感想記録と、たまに雑記

生命は巡る。少年たちの未来へ希望を。『ラスト・チャイルド』

『ラスト・チャイルド』ジョン・ハート

ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・チャイルド(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・チャイルド(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)


作品紹介(Google Books)

少年ジョニーの人生はある事件を境に一変した。優しい両親と瓜二つのふたごの妹アリッサと平穏に暮らす幸福の日々が、妹の誘拐によって突如失われたのだ。事件後まもなく父が謎の失踪を遂げ、母は薬物に溺れるように...。少年の家族は完全に崩壊した。だが彼はくじけない。家族の再生をただひたすら信じ、親友と共に妹の行方を探し続ける―早川書房創立65周年&ハヤカワ文庫40周年記念作品。英国推理作家協会賞受賞。




感想

賞を受賞、日本のミステリーランキングにも多くランクイン、とのことで期待値高めに読み始めた。

うむ・・・面白い。確かに面白いんだけど・・・。
どうにも入り込むことができない。読んでいて、主役のジョニー、ハント刑事をはじめどの登場人物にも引っ掛かりを覚えるし、どこか冷めた目で見てしまう。

下巻の途中でやっと気づいた。誰のことも好きになれないからだ。

皆それぞれの思いがあり、辛い中、苦悩を抱えている中で突き進んでいる。
応援する気持ちはある。
でも、誰も好きになれない。ジョニーも、ハント刑事も、キャサリンも、ジャックも、リーヴァイ・フリーマントルも・・・。
どうしてだろう。

この一歩引いた気持ちが、この読書体験も一歩引かせたものにした。



ただ、リーヴァイ・フリーマントルとジョニーの関係は興味深かった。
また、ジャックとジョニーの関係も。
ここが一番の読みどころだったように思う。詳細は後ほどのネタバレで。



事件の真相という点に関しては、驚きよりも、やりきれなさの方が強い真実だった。
人間は勝手だ。



しかし、物語の後味は悪くない。
少年少女の物語の良いところはこれだ。
彼らには、未来がある。





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以下、結末に触れてます。


















多数の殺人事件があった。しかし、そもそものアリッサは、事故死だった。
そして、出て行ったと思っていた父親は、娘の行方を捜して殺された。
殺されたと思っていた娘が事故で、家族を捨てたと思っていた父親は決して家族を捨てたりなどしていなかった。
これらの事実は、母と息子にとって、一種の慰め、救いとなったのだろうか。







「ラスト・チャイルド」は、ジョニーのことでもジャックのことでもなく、リーヴァイ・フリーマントルのことだった。
レイヴン郡の解放奴隷第一号、アイザックフリーマントルの最後の子(子孫)。
そしてアイザックを解放したメリモンの、最後ではない子、ジョニー。
先祖の関係が巡り巡って、二人をまた奇妙な運命に落とし込んだ。
昔先祖が救った男の子孫に救われたジョニー。

「あのおじさん、人生は環のようなものだって言ってた」

行動の環。感情の環。命の環。

巡る巡る。



しかし、フリーマントルはこうも言っている。

「最後に残された宝物だった」

これは彼の娘のことだ。
もしかしたらこの幼くして亡くなった少女こそ、「ラスト・チャイルド」かもしれない。


「だから神様はおまえを抱え上げろとおっしゃった」

「命はめぐる。おもえにそう言えとおっしゃった」

フリーマントルが自分の先祖とジョニーの先祖の関係を知っていたとはあまり思えない。
彼には、本当に神様の声が聞こえていたのかもしれない。

哀しき男。
娘と再び巡り合えただろうか。







ジョニーの唯一の友人、親友であるジャックは、ずっと真実を知っていたわけだが。


読んでいて、私がやっと「ジャックが関係しているのでは・・・?」と気づいたのは、もう本当に終わりごろ。真実が明かされる直前。

「ん?」と思った。

これから起こることは自分の手に余る。
いまはまだ。
正気のままでは。

そして、ジョニーの思考。

ジャックはあのへんに立ってたっけ。

太字。強調されている。ジャックのことが。

何故ジャックのことをここまで・・・?
そうか、ジャックが事件に関係があるからだ。
気づくの遅い私。



ジャックが、唯一の友であるジョニーを、単なる友というよりは、一種の心のよりどころとしていたのはずっと感じていた。
それだけに、真相を明らかにしたジャックの苦悩と、ジョニーが離れてしまうのではという恐怖に、こちらの胸も痛かった。

真実を隠し続けていたジャック。もちろんその行動は間違っている。
しかし、

「まだ子どもなのよ、ジョニー。ふたりともまだまだ子どもなの」

そうだ、その通りだ。
ほんの子どもだ。
子どもがすべてを許されるわけではない。
それでも言いたい。彼は子どもなんだと。



ジョニーに赦しを求めて手紙を送り続けるジョニー。

ジョニー、お願いだ。
いまもおれたちは親友だと言ってくれ。

非常に切実で、もしジョニーが赦さなかったら、ジャックは壊れてしまったのではないかとすら思える。



しかしジョニーは赦す。ずっと無視していた手紙の返事を書くのだ。宛名は

大親友のジャック・クロス様


二人の少年の間に、そしてそれぞれの家族に起こった過去は決して消えることはない。
しかし、この二人がこれからどんな未来を歩んでいくのか、また、二人がどんな関係をさらにはぐくんでいくのか。
希望を持てる。
上の感想でも言ったが、彼らには、未来があるのだ。