すきなくらし

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『ベン・イズ・バック』感想 母親が変わればきっと救われる。

近年個人的にイチオシ、更に世間の人気も業界での評価も高い、若手俳優ルーカス・ヘッジズ
父親であるピーター・ヘッジズとの初の仕事が実現した今作。

ピーター・ヘッジズは『ギルバート・グレイプ』が本当に良い映画だし、ルーカスの演技は大好きだが、予告を観て「微妙にいまいちそうな気がする」と思いながらも観に行ってきた。というか、観ないという選択肢はない。

『ベン・イズ・バック』公式サイト

 

2018年アメリ

 

 

 

 

ストーリー

クリスマス・イヴの朝、19歳のベン・バーンズ(ルーカス・ヘッジズ)は実家に突然戻り家族を驚かせる。薬物依存症の治療施設を抜け出し帰ってきたのだ。久しぶりの再会に母ホリー(ジュリア・ロバーツ)は喜び、温かく迎え入れた。一方、疑い深い妹アイヴィー(キャスリン・ニュートン)と良識ある継父のニール(コートニー・B・ヴァンス)は、過去の経緯から、ベンが何か問題を起こして自分たちの生活を脅かすのではと不安に駆られる。両親はベンに、24時間のホリーの監視を条件に、一日だけ家族と過ごすことを認めた。その夜、一家が教会でのクリスマスの催しから戻ると、家の中が荒らされ、愛犬が消えていた。これはベンの過去の報いに違いない。誰か分からないが昔の仲間の仕業だ。凍てつくような夜、ベンは犬を取り戻しに飛び出す。それを追うホリー。ベンが過去を清算しようとする中で、息子の人生を食い荒らす恐ろしい事実を知るホリーは、ベンを救うことが出来るのは自分だけであることに気づき、全力で守ることを決意する。だがベンはホリーの前から姿を消してしまう・・・。

公式サイト

キャスト

ジュリア・ロバーツ
ルーカス・ヘッジズ
コートニー・B・ヴァンス
キャスリン・ニュートン
レイチェル・ベイ・ジョーンズ
デイヴィッド・ザルディヴァ
マイケル・エスパー
ジャック・デヴィッドソン
クリスティン・グリフィス

スタッフ

監督・脚本・製作:ピーター・ヘッジズ
製作:ニーナ・ジェイコブソンブラッド・シンプソンテディ・シュウォーツマン

感想

※ネタバレあり

映画としては普通。どちらかと言うとイマイチ。
予告から察してはいたが、ヒューマンドラマというよりかはサスペンス寄りの脚本で、飽きずに観ることはできた。

何より、やっぱりルーカスが素晴らしい。
先日の初主演作『ある少年の告白』でも思ったし、いやそれより昔からの演技を観ていつも思っていることだけど、本当に繊細な演技をする。そしてそれが私のツボ。
見た目はどちらかというとキツめで、悪役なんかやらせても凄く怖くて良さそうだと思う。でもあの演技力で、途端に悲しそうな、傷ついた、繊細な少年になる。目の表情がたまらない。捨てられた子犬のよう。

教会で妹の歌を聴きながら泣いている場面は、彼の悲しみと辛さと後悔を感じ、観ていて辛かった。唯一私がこの映画で泣いたシーン。

主役はルーカスではなく、母親役のジュリア・ロバーツ
彼女はまさに熱演。
だが、この母親のキャラクターが、私にとってのかなりのストレス
観ていてあまりにもイライラして、本当に腹が立った。映画を観てこんなにいらついたのはとても久しぶり。

この母親は息子の助けになっていない、それどころか、この母親のせいでどんどん悪い方向に進んでるのでは?問題は薬物ではなく、この母親では?と思ってしまった。

それは私が母親じゃないからだろうか。母親というものの気持ちが分からないのだろうか。
想像はできるつもりだ。この母親の感情は、本当にわかるとは言えなくても、なんとなく理解はできる。
でも、嫌いだ。

息子に対してすぐに激昂する。
励ましであろう言葉、優しい言葉については、「あなたは素晴らしい」「やる気になればできる」そういった言葉をかけられている時のベンの表情を見ていると、彼の重荷になっているようにしか見えなかった。
彼女の対応は、依存症の患者にとって正しいものなのだろうか。助けたいのなら、学び、自分をまずコントロールせねば。

他人にもすぐ当たる。そういうところ、大嫌い。

何より「ありえない」と思ったのは、ベンの行き先を知るために、依存症のスペンサーと取引をするところである。
依存症の人間に、薬を渡した。
赤の他人でもなく、赤ん坊時代を知っている青年。薬物中毒の患者に、薬を。
彼女の神経を疑った。
いや実際、もうあのときの彼女は、正常な判断力を保てていなかったのかもしれないが。

彼女のこのどん引き行為や、他人への暴言、更にベンへの怒りや優しい言葉。
これらはすべて息子のことを大事に思うから出た言葉、行為とは言える。感情のままに。
母親の、息子への愛情ゆえに。

でも、きっとだめだ。依存症の息子を救おうと思うなら、これらの行為はきっとだめだ。

ベンはまず映画冒頭で家に帰ってきた。これが一度目の「ベン・イズ・バック」。
そしてラスト、死にかけていたところを母の助けで息を吹き返した。この世へ、そして母の元へ帰ってきた。これが二度目の「ベン・イズ・バック」。
本当に消えかけて、やっと帰ってきた息子を失わないためには、彼女も変わらなくては。

このラストシーンの前、ついに警察に駆け込んでいる姿は、やっと正常な判断ができるようになったか、と思ったが。
人に助けを求めないと。
彼女も変わる片鱗だろうか。それを願う。

映画パンフレットに、カウンセラーの山下エミリさんのコラムが載っていた。
私が映画を観て漠然と感じていたことを、専門家の目線できちんと解説されてて助かった。
いくつか引用させていただく。

「私の気持ちに寄り添って欲しい」というメッセージの一方で、寄り添おうとすれば怒るというように矛盾した二つのメッセージを同時に送ることをダブルバインド(二重拘束)と言います。
こういう育てられ方をすると子どもは、どちらも選べず混乱し、心理的ストレスがかかるため子どもに問題が現れやすくなると言われています。

また山下さんも、最後ホリーが夫に弱音を吐き、警察に助けを求めたシーンを

物語が大きく変わるという希望と期待が表れた瞬間

と述べている。

彼女はここで変われたのか。そしてベンは救われるのか。

締めに

この映画の続きは二通りの筋書きが作れます。

その二通りとは、実際にパンフレットで確認していただくとして。

これは薬物中毒の息子の物語ではなく、母親の物語だった。
彼女が変わり、ベンも救われ、明るい家族の姿が未来にあることを、切に願う。

ルーカス・ヘッジズの素晴らしい演技は以下作品でも!