すきなくらし

映画、ドラマ、小説、舞台等の感想記録と、たまに雑記

『あしながおじさん』 輝く女性の姿

以前から気にはなっていたけど、なんとなくずっと手をつけずにきた、ジーン・ウェブスター著『あしながおじさん』を読んだ。

こちらの古典新訳文庫で。

あしながおじさん (光文社古典新訳文庫)

あしながおじさん (光文社古典新訳文庫)



私が一番好きな小説はバーネットの『秘密の花園』で、これは子どもの時からずーっとそうなんだけど、これに並びそうな勢いで好きになった。





ミュージカル俳優の井上芳雄さんにハマった流れで、ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ〜足ながおじさんより』のCDを買った。これが大当たり。
井上芳雄坂本真綾、2人だけのミュージカルで、この2人の歌声がとても素晴らしいのはもちろん、曲から物語性が湧き出ていて、とても心惹かれた。
実際に舞台を観たわけではないのに、CDだけでこんなに心躍るなんて。


というわけで、原作小説に手をつけるに至ったわけである。






ネタバレありです。










ミュージカルCDの感想

先にミュージカルCDについて少しだけ。


CDのブックレットにあらすじが載っていたので、その内容をざっと頭に入れて聞く。
ミュージカルだし、歌詞の内容で話の流れもだいたい想像できる。


なんてかわいいんだろう、と思った。
物語も、ジュディも、そしてあしながおじさんこと、ジャーヴィー坊ちゃんも。
なんともキュートで生き生きとした世界観が溢れていると思った。


ジュディを演じる坂本真綾さん、声優として名前は知っていたが、歌も素晴らしい。ジュディ役にぴったりな印象。
明るくて軽やかな可愛らしい声で、伸びやかで表情豊か。

そして井上芳雄さん。このCDでの歌声は、特に美しいと感じた。いつにも増して私好みの歌声です、ありがとうございます。しっとりと伸びやかで、なのにどこかチャーミング。こちらもこのジャーヴィー坊ちゃんにぴったりという印象。




あしながおじさん』という作品だが、私はこの作品が、いわゆる恋愛方面でのハッピーエンドを迎える物語だと思っていなかったので、CDを聞いて驚いた。
タイトル通り、そしてずっとジュディが思っていた通り、あしながおじさんは「おじさん」だと思っていたんだな。
長年ずっとそう思っていたんですよ。思い込みってすごい。



CDだけでもあまりに素晴らしいので、是非ともまた再演をお願いします。
もちろん坂本真綾&井上芳雄で。







小説の感想

ミュージカルが原作通りなのかやや疑いを持っていたので、読み進めながら、なかなかの忠実さであったことを知り驚き、嬉しく。ミュージカルの歌詞がいちいち原作にあるものを使っていることに感動していた。
あ、この部分歌にあった!とか思いながら読んでいた。



ミュージカルCDにより、あしながおじさん=ジャーヴィスということは分かっているので、全てが明らかになった瞬間の驚きはなかったけれど、とにかく全編どうにも胸がときめいて仕方がなかった。
それに、真相を知っていたのに、作中でそれが明かされたとき、思わず泣いてしまった。



ミュージカルではジャーヴィスの心境も歌われるけれど、原作ではジュディの一方的な手紙のみなので、ジャーヴィスが何を思っているのかはわからない。
それを想像しながら読むのが、たまらなく楽しかった。

ああきっとジャーヴィスはこのジュディの手紙を読みながら嫉妬してるなとか、焦ってるなとか、喜んでるなとか。
ジュディへの指示や対応を見ていると大人気ないところも多くて面白い。

そしてジャーヴィスあしながおじさんであるとはつゆ知らず、ジャーヴィスについて良いことも悪いことも正直にあしながおじさんに伝えるジュディ。

これを読みながら、ジャーヴィスは何を思っているのだろうか、と考える私。





ジュディの最後の「ラブレター」は素敵でたまらない。

ミュージカルCDで、「ああ恋愛もののハッピーエンドだ。素敵だしかわいいしときめく」と思っていたんだけど、この手紙の最後の部分で、それだけではないことに気づく。
「家族ごっこじゃなくて?」という文章だ。

本当に 、まちがいなく 、あなたはわたしのもので 、わたしはあなたのものなのですね ?家族ごっこじゃなくて ?わたしがついに誰かの大切な存在になったなんて 、変な感じ … … 。でも 、とびっきりすてきな気分です 。

そうだ、恋に落ちて結ばれて、結婚するということは、すなわち家族ができるということ。そんなことも忘れていた。

孤児であるジュディが求め続けていた「家族」。あしながおじさんと家族ごっこをして、心を満たしていた彼女が、ついにジャーヴィスと本当の家族になる。

大学の4年間で自立した女性として成長してきたジュディにとって、欠けていた「家族」という最後のピースが埋められたのだと感じた。



とにかくジュディのキャラクター性が魅力的でたまらない。
はつらつとしていてユーモアがあって、卑屈にならず、とにかく前向き、自分をしっかり持っている。若い女の子らしく気分がくるくる変わるけれど、決して他人に流されない。慈善で与えられたお金も返す。4年間で多くを学び、経験し、どんどん自立した女性となっていく姿、明るいキャラクターは好きにならずにいられない。





これもミュージカルCDだけでは気づかなかった点だけど、小説では当時の女性の社会での立場、状況をさらっと描いていて、けっこう深いと思った。
参政権がないことについてや、女性だけが言われるお仕着せがましい勝手な説教。
ジュディが、嫌味じゃないけど皮肉っぽく言及している。


アメリカで女性の参政権が認められたのが作者が亡くなってからとのことで、ジーン・ウェブスターが、女性が本当に「市民」となれた時代を目にすることが出来なかったのが残念な限り。